前触れなく電源が入らなくなった、という電源不良は、バッテリーを交換しても改善しなかった時点で対応の手が止まりやすい症状です。今回お預かりしたiPhone SE(第3世代)も、落下や水没の心当たりがない、いわゆる自然故障の個体でした。結果としてはVDD_MAIN系統のショートという、電源不良のなかでもとくに頻度の高い故障パターンです。特別なことをした事例ではありませんが、切り分けの手順と処置の内容をそのまま公開します。
症状・お預かり時の状態
| 機種 | iPhone SE(第3世代) |
| 症状 | 電源不良。電源ボタンを長押ししても無反応で、画面点灯・振動のいずれも見られない。充電しても反応に変化なし。 |
| 経緯 | 使用中に前触れなく電源が入らなくなった。落下・水没・分解歴なし(自然故障)。 |
外装に目立った損傷はなく、基板を取り出して確認しても、焼損や腐食といった分かりやすい異常は見当たりませんでした。目視だけでは手がかりが出てこない、自然故障らしい見え方をしている個体です。

初期診断:まず何を測るか
電源が入らない症状は、まずバッテリー自体の劣化や接触不良から疑うのが基本です。判断の入り口になるのは、バッテリーを外してコネクタへDC安定化電源を直接つなぎ、電流の入り方を確認する測定です。今回は通電した直後から電流が異常な水準で頭打ちになり、そこから上昇しない挙動が確認できました。バッテリー単体の劣化ではこの挙動は説明がつかないため、基板側の電源系統でショートが起きていると判断し、基板を取り外して原因の絞り込みに進みました。
- バッテリーを外し、コネクタへ直接通電して電流の入り方を確認する
- 電源不良で頻度の高い系統に見当をつけ、テスターで抵抗値を確認しながらショートしているラインを絞り込む
- 通電した状態で発熱の出方を確認し、熱が集中する箇所を特定する
- 特定した箇所の周囲を導通チェックし、VDD_MAIN系統でのショートと確認する
VDD_MAINは電源の大元にあたるラインで、ここがショートすると電源そのものが立ち上がりません。今回は発熱の集中していた箇所を顕微鏡で確認し、周辺のチップコンデンサが内部でショートしていることを突き止めました。外観上は割れも変色もない部品で、目視だけでは判別がつかないタイプの不良です。

処置内容
原因部品が特定できたため、以下の手順で処置しました。
- 顕微鏡で確認しながら、ショートしていたチップコンデンサを除去する
- 除去後、基板パターンや周囲の部品に損傷がないことを確認する
- 再度導通チェックを行い、VDD_MAIN系統のショートが解消していることを確認する
- 仮組みの状態で通電し、電流の入り方が正常に戻っているかを確認する
今回除去したのは電源ラインに並列で入るバイパスコンデンサにあたる部品で、電源の安定化を補助する役割のものです。同じ役割の部品が周囲に複数配置されているため、1つ除去した状態でも動作に支障は出ません。新たな部品を載せずに除去のみで完了させています。

結果・動作確認項目
処置後、電源投入で正常に起動するようになりました。基板パターンの損傷はなく、再生などの追加作業は発生していません。お返しする前に、次の項目を確認しています。
- 電源の起動(複数回の再起動テストを含む)
- 画面表示とタッチ操作
- 充電・USB接続の認識
- 電波の受信状態
- 一定時間通電した状態での発熱・消費電流の推移

作業日数は1日です。
ご提案
VDD_MAIN系統のショートは、電源不良の原因のなかでもとくに頻度の高いパターンです。特別な条件が重なって起きる故障ではないぶん、原因部品さえ特定できれば処置自体は短時間で終わり、復旧後に同じ箇所が再び不良を起こすおそれもほとんどありません。逆に言えば、目視では何も見えない個体でも、測定で順を追えば十分に原因までたどり着けるということでもあります。想定される依頼シーンとしては、①バッテリーを交換しても電源が入らない案件、②外装にも基板にも見える異常がなく、原因の切り分けから任せたい案件、の2つが挙げられます。診断のみのご依頼にも対応しており、当店ではiPhoneやAndroidのスマートフォンから、iPad・タブレット、Switch・PS5などのゲーム機、ノートPCまで幅広い機種の基板修理に対応しております。窓口を1社にまとめていただくことも可能です。
修理のご相談や料金はホームページでご確認いただけます。お問い合わせは公式サイトの問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。
