タッチが効かないという症状は、画面側のトラブルとして扱われることが多いと思います。実際、パネルの交換で改善するケースが大半です。ただ今回お預かりしたiPhone 12は、基板側のタッチ回路に電源を送っているコイル(インダクタ)の内部断線が原因でした。タッチ不良の原因としては、あまり見かけない部類の故障です。落下や水没の心当たりもないとのことで、最初の見立てが立てづらい個体でもありました。どこを測って、どういう根拠でこの小さな部品にたどり着いたのか、切り分けの過程を公開します。
症状・お預かり時の状態
| 機種 | iPhone 12。 |
| 症状 | 画面表示は正常だが、タッチ操作が反応しない。 |
| 経緯 | 落下・水没などの心当たりは特にないとのこと。基板側の診断からのご依頼。 |
外装を確認した限りでは、落下による目立った打痕や歪みはなく、水没を示す変色・腐食の痕跡も見当たりませんでした。分解して基板を取り出したあとも、顕微鏡で見る限り部品の欠けや焦げといった分かりやすい損傷はありません。「見た目からは何も分からない」状態からのスタートでした。
初期診断:まず何を測るか
タッチ不良で最初に切り分けるのはパネル側です。パネルを交換して改善すればそこで完結するため、基板側の診断はその次の段階になります。今回は基板側を見てほしいというご依頼でしたので、タッチ回路に必要な電圧が出ているかを最初に確認しました。
iPhoneのタッチ機能は、パネル単体で成立しているわけではありません。基板側でタッチ用の電圧を作り、それをコネクタ経由でパネルへ送ることで、はじめてタッチが認識されます。したがって「パネルを替えても直らないタッチ不良」は、大きく分けて①基板側でタッチ用の電圧が作れていない、②電圧は出ているが信号がパネルまで届いていない、のどちらかに絞り込めます。この2つを分けるために、まず電圧を測るところから始めます。
測定の結果、タッチ回路へ供給されているはずの電圧が出ていませんでした。この時点で、パネル側やコネクタ側ではなく基板側の電源部分に問題があると判断しました。
原因の特定プロセス
- 顕微鏡でタッチ回路の周辺を確認。腐食・部品の欠け・はんだのクラックなど、目視で分かる異常がないことを確認した。
- タッチ回路の電源ラインをテスターで測定し、本来出るはずの電圧が出ていないことを確認。電圧が「低い」のではなく、まったく出ていない状態だった。
- その電圧を作っている経路を順にたどり、途中にあるコイル(インダクタ)の両端で導通を確認したところ、導通なし。コイル内部で断線していると判断した。
- 周辺のICやコンデンサ側にショート・抵抗値の異常がないことを確認し、他の部品を巻き込んだ故障ではなく、コイル単体の断線であると結論づけた。
タッチ不良でここまで来るケースはあまり多くありません。パネルを替えても直らないとなると、タッチICやCPUのような大きな部品を疑いたくなるところですが、実際には今回のように電源側の小さな部品ひとつで回路全体が止まっていることもあります。部品の見た目はまったくの正常で、導通が無いと分かったときは正直なところ少し意外でした。


処置内容
- 断線していたコイルを取り外し、ランド(はんだ付け部)を整える
- 同一規格のコイルを実装し、両端の導通を再確認する
- タッチ回路の電圧を再測定し、本来の値が出ていることを確認する
- 仮組みの状態でパネルを接続し、タッチが反応するかを確認する
部品自体は非常に小さく、周囲にも部品が密集しているため、熱の掛けすぎは隣接部品を動かしたりランドを傷めたりする原因になります。温度と時間を見ながら、必要最小限で作業を進めました。
結果・動作確認項目
コイル交換後、タッチ操作は全面で正常に復帰しました。作業日数は受領から2日です。
経緯としては心当たりがないとのことでしたが、コイルの内部断線は、1回の大きな落下ではなく、日常的に加わる小さな衝撃が蓄積して起きることがあります。今回も外装に落下痕がないことから、そうした蓄積によるものと考えています。「心当たりがない」というお話でも、基板の中では確実に何かが起きているという一例です。

復旧後に確認した項目は以下の通りです。そのままエンドユーザー様へのご報告にお使いいただけます。
- 画面全域でのタッチ反応(四隅・中央それぞれ)
- スクロール・フリック・長押しなどの操作
- 画面表示(ちらつき・表示ムラなし)
- 充電およびバッテリーの充放電
- モバイル通信の接続
ご提案
今回のような症例で、外注のご検討が向いているのは次のようなケースです。
- パネルを交換しても改善しないタッチ不良で、それ以上の切り分けが難しい個体
- 落下・水没の心当たりがなく、症状から原因を絞り込めない個体
修理まで進めるかどうかを決める前の、診断のみのご依頼にも対応しています。原因が基板側にあるのか、どの程度の作業になるのかをお伝えしたうえで、そのまま修理に進むか、エンドユーザー様へ状況を説明してお返しするかをご判断いただけます。
当店はiPhoneだけでなく、Android・iPad・ゲーム機・ノートPCの基板修理にも対応しています。機種ごとに外注先を分けずに済むという点も、あわせてご検討いただければと思います。なお、部品の交換や仮付けなど、技術的に対応可能な切り分けについては、あらかじめ実施いただいたうえでご依頼いただけますと、診断がスムーズです。
修理のご相談や料金はホームページでご確認いただけます。お問い合わせは公式サイトの問い合わせフォームよりお気軽にどうぞ。

